最難関に挑む Ⅲ

2020/09/22(火)

ハイマツが迫る山頂は狭く、布引山と同じ静岡県の立派な標柱が三角点の近くに、その脇に山梨県の標柱が控えめに並ぶ。背後には南アルプス南部の名峰群が指呼の間に広がり(写真)眼下には影笊も、北に目をやれば遠く鳳凰三山まで見える大展望だ。ほどなくして単独の男性(同世代)が登って来る。昨日、桧横手で我々を追い越し、布引山で灯りがあったテントの主だ。神奈川から来て深夜の老平で車中泊、やっと念願の笊に登れたと屈託無く話す。写真を撮り合い、下りのタイムが読めないから、お先にと15分ほどで下っていった。屈強にして謙虚な親しみやすい山男だった。他にも昨日、広河原で越された男性二人組、桧横手で下ってきた単独日帰りの男性二人、合わせて五人と出会ったが何れもスペシャリストだ。それに比べ半端な自分達が恥ずかしい。さて我々も帰ろう。日が暮れる前に下山できなければ2泊目を山中で過すことになる。7:55布引山まで下りて来ると3張りあったテントは跡形もない。神奈川の男性は相当なベテランだから速やかに撤収したと思われるが、残りの2張りは出会うことなく消えた。小笊の帰りにショートカットしたと推測する。この大きな山に二人だけ取り残された。今日も最後尾になる。激下りを桧横手のテントに戻る。休む間もなく撤収だ。時間との競争だから朝食はあきらめ行動食で我慢する。「山では年齢は言い訳にならない」 自分に言い聞かせ頑張る。長い下りの末に無事下山!共に頑張ったY君に感謝!!
笊ヶ岳06:40~桧横手09:35 2+55 
桧横手10:30~老 平16:40 6+10  TX

最難関に挑む Ⅱ

2020/09/22(火)

2:00アラームで目覚めたY君に起こされ長い一日が始まる。標高2021mにしては寒さを感じない。テントの結露もない。風もなく静かだ。テントを出て星空を探すが周囲には霧が立ち込め月も見えない。経験的に不安がよぎる。2:50サブザックで出発、少しだけ下って直ぐに昨日とおなじ厳しい急登になる。不安が的中する。辺りはモミ、ツガの原生林が鬱蒼と茂り、昼間でも慎重なルートファインディングが求められる区間だ。霧の中をヘッドランプが照射する限られた範囲の中に赤テープを探しながら、時に木の根を掴みながら這い上がる。急勾配の上に倒木も多く、跨いだり潜ったり、背中の荷物が軽いことが唯一の救いだ。4:10小ピークを過ぎて霧の層を抜けた。満天の星空が広がり、振り返れば南アルプス深南部の彼方に街の灯りも見える。晴天が確証された瞬間だ。やがて左手が地図の危険マークが記す大きなガレ場になり、暗闇の中に吸い込まれないように縁を慎重に歩く。この直後、4:45余りに唐突に布引山の山頂に到着する。静岡県が立てる山頂標柱は立派で、三角点標石の直ぐ脇に建つ。テント場には3張り、その内1張りは中に灯りがある。東の空が白み始めて来たから先を急ごう。5:30コル着、真東に雲海から上がる御来光を拝む。ラスト1ピッチ25分の登り返しでハイマツをかき分けて山頂に、念願の笊ヶ岳に立った。小笊と富士山と太陽が一直線に並び(写真)我々を迎えてくれた。
桧横手02:50~笊ヶ岳06:10 3+20

最難関に挑む Ⅰ

2020/09/21(月)

今日は人生で初めての敬老の日を迎え「山は逃げないけど年齢が逃げる」この言葉の意味が身に沁みる。4:45老平を出発、危険箇所が連続するアプローチと、広河原の渡渉も無事に終えて水筒に2日分の水を満たす。4年前に七面山の希望峰から見た時に特徴的な双耳峰の姿に惹かれ、いつか登りたいと願った山が、Y君と昨年から計画してきた憧れの山が、ついに現実の物になった。ガイドブックでは笊ヶ岳(2629m)日本二百名山、全行程約25km、標高差2130m、標準タイム登り10時間、下り7時間、途中に水場も非難小屋もない、グレード7-D、山梨百名山の中では最難関とされている。7:45沢床から一気に急傾斜のキツイ登りが始まり、布引山を従えた笊ヶ岳の大きな懐に入って行く。覚悟はしていたが20kg近いザックは老体に容赦なく重い。8:45先月も参拝した山の神に到着、順調なペースにほっとする。再び手を合わせ登山の安全と明日の晴天を祈る。入念に練った計画は、ここから3時間の桧横手を幕営地にする。一般には布引山まで上がるようだが、初日に無理をせず体力の温存を計る作戦だ。目標は12:00で本日の行動を終えて、昼食とテント設営の段取り。だが、流石に朝食から7時間が経過して足取りは重く、空腹に耐えながら延々と続く厳しい急登を頑張る。ご褒美は美しい朝焼け(コル付近で撮影)、見事な御来光と晴天の大展望があった。
老 平04:45~桧横手12:30 7+45

本番一週間前のトレーニング

2020/09/13(日)

連続した9号10号が去っても台風一過の晴れは無かった。それどころか低気圧と前線による不安定な状態が続き、局地的な雷雨が毎日ある。Y君とテン泊でトライする笊ヶ岳が一週間後に迫りトレーニングの仕上げに瑞牆山に登った。本当は両神山を計画していたが、午後から雨の確立が高く近場で済ませることになった。登りは久しぶりにカンマンボロンを行く。濡れた下草に靴やズボンの汚れも御構いなしにグングン高度を稼ぐ。クラブ山行でも、Y君とも何度も登っているルートだから道に不安はないが、一箇所だけシャクナゲ群生地の手前に昨年の台風19号によると思われる大きな倒木があり迂回に難儀する。路面も濡れていて滑りやすいから下山は別コースだなと考え始める。やがて富士見平コースを往来する登山者の声が聞こえて来ると大ヤスリ岩は近い。こんな天気でも瑞牆山の人気は凄い。霧で景色は見えなくても山頂を極めた登山者は誰も晴れやかな顔をしている。30人以上で賑わう山頂を離れ、西のピークに移動してラーメンを食す。休んでいると風が冷たく、しばらく出番なくリュックの底で眠っていたヤッケを出して着る。眺望はあきらめ帰ろうとした時、一瞬だけ霧が流れ(写真)大ヤスリ岩の彼方、低層の積雲と高層雲の間に南アルプスを捉えた。直後に雨粒が落ち始め傘を差して不動滝コースをゆっくり下山した。
自然公園07:05~瑞牆山09:40 2+35(カンマンボロン)
瑞牆山10:30~自然公園13:10 2+40(不動滝)    TX